造幣局 七宝章牌 藤娘の紹介(2007)

造幣局 七宝章牌 藤娘 七宝章牌
七宝章牌 藤娘

 七宝章牌 藤娘は、伝統芸能を題材にしたシリーズである、能楽(能・狂言)、歌舞伎、人形浄瑠璃文楽に続く第4作品目にあたります。

伝統芸能を題材にした七宝章牌は次作の「雅楽」を含めて計5作品になりますが、多くはユネスコの世界の無形遺産保護の一環である「人類の口承及び無形遺産の傑作」(無形文化遺産)に登録されているものです。

(無形文化遺産への登録 -> 能楽:2001年、人形浄瑠璃文楽:2003年、歌舞伎:2005年、雅楽:2009年)

藤娘に関しては、無形文化遺産に登録されてはおりませんが、日本舞踊や歌舞伎の題目として今なお踊り継がれている曲でもあり、我が国で長く親しまれてきた伝統芸能の一つとして知られています。

なお、章牌にデザインされた藤娘は造幣局による制作のもの。現行の流通貨幣の正調なデザインや国家的な記念事業の貨幣に見られるテーマに相応しいデザインも素晴らしいものですが、七宝章牌は金属工芸作品の魅力溢れる逸品であると思います。

七宝賞牌 藤娘の仕様や図柄、彩色など写真と共に記載いたしましたので、お時間あればご拝読お願い申し上げます。

七宝章牌 藤娘の仕様

章牌の図柄と仕様
章牌の図柄と仕様
材質:純銀
直径:60mm
重さ:約160g
仕上:七宝・金メッキ仕上

付属の栞による説明

『この七宝章牌は、大津絵(近江国大津の民画)にその端を発し、長唄、日本舞踊、歌舞伎の演目としても取り上げられ、また、その姿は日本人形や羽子板にも用いられるなど日本人に親しみ深い存在である「藤娘」を題材に製造いたしました。』

七宝章牌 藤娘の図柄(外観)

藤娘の表面
藤娘(表)
【表】
 藤娘が黒の塗り笠に藤づくしの衣装で藤の花枝を担げて艶やかに舞う姿を、白、黒、赤、紫、薄紫、薄青緑の全6色の七宝で表現し、藤野花の色彩を優しい色合いに工夫するなど、芸術性の高い作品に仕上げています。
藤娘の裏面
藤娘(裏)
【裏】
 日本の伝統紋様である「七宝つなぎ紋様」を背景に、「藤娘」とローマ字の「Fujimusume」の文字をデザインしています。

章牌の題材である「藤娘」について

ケースの内面
藤娘(ケース内)
藤娘は、永楽館大歌舞伎(2009年8月4日~11日公演)で以前拝見したことがありました。公演場所の出石永楽館は、明治34年開館の近畿最古の芝居小屋で、古き良き趣のある貴重な劇場でも知られています。

永楽館大歌舞伎の公演で藤娘を演じたのは、歌舞伎役者の中村壱太郎(なかむらかずたろう)さん。当時19歳だったと言います。
この他、昨今の歌舞伎で有名な藤娘と言えば、坂東玉三郎さんによるものかと思います。

藤娘は元々、大津絵(※)を代表する画題の一つで、かつぎ娘、藤かつぎ娘とも呼ばれました。
私が以前拝見した芝居小屋に飾られた絵柄は、橙と山吹色の優美な着物姿と記憶しておりますが、標準的な衣装は黒い着物に藤柄が知られているところでしょう。

※大津絵 -> 滋賀県大津市で江戸時代初期から名産としてきた民俗絵画。今で謂う所の絵葉書のようなもの。

舞踊の世界での登場は、文政9年(1826年)江戸中村座にて藤井源八・三升屋二三治作『歌えすがえす余波大津絵(かえすがえすおなごりおおつえ)』五変化舞踊の一コマが初演であったと言います。

現在の藤娘の演目は一幕物になっており、藤の精が松の大木にからむという設定で演出変更されたものです。大津絵の一コマものからは離れております。(昭和十二年 六代目尾上菊五郎の演出変更による)

ご存知の方も多いと思いますが、大津絵で描かれた藤娘は遊女(おやま)。現代の演目では藤の精(藤の花の精)が娘の恋心を踊ります。

現代の演目に登場する藤娘は、見た目はあどけなく可憐な娘姿でありますが、歌詞の内容は情熱的に華やかに、女性の色香がしっとり表現されています。このあたりの表現は大津絵の藤娘を想起させるものがありますね。

造幣局が手掛けた七宝章牌の藤娘にもこうした可憐さや色っぽさを色鮮やかな彩色により表現されております。

七宝章牌 藤娘の採色について

藤娘の表面
藤娘
白、黒、赤、紫、薄紫、薄青緑 の6色。

黒を基調とした藤柄の着物に藤の花と若葉の花枝。黒塗りの笠も見事です。

凛とした顔立ちに紅が映える藤娘のデザインは、藤の花と若葉の彩色が優しい風合いを醸しています。

七宝章牌 藤娘の写真を色々な角度から

藤娘の表面
美麗な作品

柔らかい色使いと華やかな藤柄の着物。七宝の風合いも伴って美麗な作品です。

藤娘の表面
浮彫り

浮彫りの様子。

藤娘の表面
表情

顔立ちも良く。

藤娘の表面
七宝盛り

丁寧な七宝盛り。

背面のデザイン

藤娘の裏面
麻の葉文様

背面は、七宝つなぎ紋様と深めの彫りの「藤娘 Fujimusume」

藤娘の裏面
造幣局製刻印

造幣局製刻印は、背面下部に。

七宝章牌 藤娘の販売価格について

2007年(平成19年)に販売された価格は、135,000円(税込み、送料込み)。
※販売については、2007年12月申込開始、2008年1月以降の発送となっておりました。

七宝章牌の前作(人形浄瑠璃)の価格が、120,000円、前々作(歌舞伎)の価格が、125,000円でしたので、10,000円以上値上がりしていることになります。

また、ここ数年で販売された七宝章牌の価格でも、132,000円 です。
昨今の消費増税や地金としての銀の価値の上昇も踏まえると、藤娘はかなり高めな価格設定だったと思います。

七宝章牌の中でも定価が高めな訳

では、なぜここまで急な値上がりをしてしまったのかというと、

  • 地金相場の高騰
  • 章牌デザインの工賃

が影響したものと思われます。

地金相場の高騰で言えば、

2005年が、25~30円前後で推移していましたが、
2006年は、40~50円前後
2007年は、50~55円前後

まで上昇しました。

地金(原材料)の調達に係る費用が大きく影響したものと考えられます。

また、章牌のデザインも造幣局オリジナルになりますので、元になるデザインのものから章牌用に起こすのとは異なり、デザインを一から検討し仕上げる分だけ工賃もよりかかることでしょう。(何かしら原図があった可能性もありますが)

こうした状況もあり、この年の七宝章牌は高値での販売になったものと思われます。

フリマサイト、オークション等での実売価格

日付 取引価格
2022/02 90,000円
2020/10 34,300円
2020/10 30,500円
2020/08 41,500円
2020/08 29,180円
2020/06 26,600円
2020/02 26,500円
2020/01 38,100円
2020/01 35,000円
2019/12 45,500円
2019/09 35,990円
2018/11 32,722円
2018/06 31,300円
2017/02 21,500円
2016/11 18,100円
2016/09 17,535円

直近で確認できたところはこの17件でした。
販売数が限られているものですが(500個)、それなりに見かけることのある藤娘です。
とは言え、年に数回購入の機会があればいいところだと思いますので、その時々で欲しい方がいれば高値で取引されるし、そこまで欲しい方がいなければ安値で購入も可能といったところでしょう。

七宝章牌は見ていて惚れ惚れするような美しさがあります。機会があれば入手してみるのも良いかと思います。

七宝章牌藤娘のケース
漆塗り特製ケース

今回はこの辺りで終わりにしたいと思います。ご拝読ありがとうございました。(管理人)

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