本文鎮は、尾形光琳筆による『燕子花図』の六曲一双屏風から図柄を採用されたものになります。
燕子花図は、尾形光琳の初期の代表作として知られ、群青と緑青と金地が織り成す色彩の美が現代でも多くの人々を魅了する作品だと思います。燕子花(かきつばた)が一斉開花する見頃(4月中旬~5月中旬)、東京根津美術館での特別展で毎年見ることができます。
本作品は、燕子花図より一部の絵柄を採用し、線画と七宝により表現された造幣局製の文鎮になります。
七宝入燕子花文鎮の仕様や図柄、彩色、デザインについて写真と共に記載いたしましたので、お時間あればご拝読お願い申し上げます。
七宝入燕子花文鎮製品仕様
付属の栞には以下のような文言が書かれています。
「燕子花図」(根津美術館蔵)は、いましも咲き誇る燕子花の美しさを単純明快に描いたもので、絵画における装飾性と美術性を統一した傑作であるといわれ、国宝に指定されております。
製作に当たつては、地金に丹銅を使用し、花と葉の彫刻に七宝を盛り、周囲には、金メッキを施し、市松模様のつや消しをつけて仕上げてあります。』
尾形光琳筆『燕子花図』作品の背景(和歌)
燕子花図は、作品名のとおり咲き誇るカキツバタの群生を描いたものでありますが、題材の端緒として、伊勢物語の9段「東下り」また「古今和歌集」に収録されている和歌とされる見方があります。
この歌もまた有名で、古文の授業で見知った方もおられるかもしれません。
『唐衣着つつなれにしつましあればはるばる来ぬる旅をしぞ思ふ』
この歌は、三河(現:愛知県)の八橋という所で詠まれた歌と言われ、かきつばたを目の前にして旅のわびしさを詠まれたものです。
から衣きつつなれにしつましあればはるばる来ぬるたびをしぞ思ふ
和歌の(5・7・5・7・7)各句に分けると縦に「かきつばた」が表れ、歌の情景が浮かびあがります。
現代で言う縦読みというところで歌の技法では「折句」と言うそうですが、古くは言葉遊びの一つであったものが現代では匂わせや煽り、文章とは全く違う本心であることを考えると良くも悪くも多様性の時代であると感じます。
七宝入燕子花文鎮の図柄
本文鎮は、燕子花図の左隻、第三扇の一部を切り取ったものと思われます。主にカキツバタの花を中心とする図柄で、少々うるさすぎると感じるのは余白が限られているからかもしれません。
線画により花弁や雌しべ、葉や茎の様子がはっきりと描かれ、背景の市松模様は鏡面と艶消しを交互に仕上げる工夫が施されております。金属工芸品の細部の作りの難しさを、市松模様の背景により絵柄とバランスを取るように感じられ、出来栄えに一つ添えられていると思いました。
背景の市松模様は、撮影時に反射もあり写真を撮るのに苦労しました。
光沢感のある仕上がり。
七宝の盛りと立体感は控えめ。
七宝入燕子花文鎮の採色
七宝は、紺青とトルコ青、緑の三色になります。青と緑と金(黄)の三色の組み合わせは、草花の鮮やかさに背景の黄色が華美な印象を伝えてくれますが、本作品はやや華美さや絢爛さは控えめで、しかし、色の塗りは原図を極力再現するようなはっきりした彩色をされています。過度な華やかさというよりは自然美のそのものを表現されたような印象は、原図の通りであるとも思います。
背面
背面および側面は、艶消し金メッキ仕上げ。側面に「造幣局製」の刻印があります。
化粧箱
化粧箱は、外装が合成皮革、内装がベロアとサテン生地の一般的なものになります。
フリマサイト、オークション等での実売価格
日付 | 取引価格 |
---|---|
2023/03 | 5,000円 |
2019/11 | 3,100円 |
2019/07 | 2,000円 |
2017/11 | 6,000円 |
2016/12 | 2,000円 |
2016/06 | 5,500円 |
2016/01 | 7,100円 |
直近で確認できたところはこの7件でした。
かなり古い品で、製造数も限られていたと思います。七宝に割れ欠けが見られるお品ではありませんが、保存状態によっては紙箱、化粧箱に傷みが見られるものもあります。(写真のものも傷み有り)状態の良いものは少ないかもしれませんが、お目にかかることがあれば購入を検討してみるのも良いかと思います。
以上、今回はこの辺りで終わりにしたいと思います。ご拝読ありがとうございました。(管理人)