造幣局では貨幣偽造防止の取組みや製造技術の高度化を目指し研究開発が行われています。その中で勲章等の金属工芸品については、貨幣製造に先立ち新しい技術を用いた製品が開発され、また、技術の先鋭化のみならず製造の効率化を図る様々な機械の導入も行われています。
例えば、自動切削加工を可能とする工作機械マシニングセンタ(MC)は代表的なもので、ソフトウェアで描かれた図面の通りに製品表面の模様を再現するのはご存知の方も多いと存じます。
本記事では、造幣局が研究開発の結果、製品化されたものやその技術について取り上げたいと思います。
工作機械の導入による製造の効率化
工作機械の導入は製造の効率化のみならず、製品の生産性、品質の向上にも寄与します。以下、工作機械はその一部になります。
- マシニングセンタ(MC)
- 七宝自動盛機
- 七宝仕上自動研磨機
- 自動研磨(羽布研磨機)
- ワイヤー放電加工機
- シェイピング加工(精密切削加工機)
マシニングセンタ(MC)は、研削や穴開け、ねじ加工といった複数の仕事がこなせる工作機械で、必要な工具を自動的に取り替えながら作業が可能な機械です。造幣局では兼松の機械(厳密には子会社の兼松KGKの機械)を採用されているようです。
七宝自動盛機は、名前の通りあらかじめ指定した七宝釉薬と位置に基づいて七宝を盛り付ける機械です。こちらは武蔵エンジニアリング株式会社の機械が採用されています。
七宝仕上自動研磨機は、七宝の研磨を機械がやってくれる装置です。わかったようなわからないような説明ですが、砥石のようなものを機械で回転させながら表面を削るように磨き上げるというと少し想像がつくかもしれません。
自動研磨(羽布研磨機)は、手作業であれば布に研磨剤をつけて対象物の表面を磨く作業になりますが、それを機械でやってしまおうというものです。円形のベルトみたいなものが凄い勢いで回転し、そこに磨きたい部分を当てるような感じで研磨していきます。金属工芸品などものづくりの映像を見たことがある方には馴染みがあるかもしれません。また、バフ研磨機と片仮名表記されている場合も多いです。
ワイヤー放電加工機、ちょっとよくは知らなかったものでして、以下は造幣局でホームページで書いてあった説明です。『金属製のワイヤー(直径0.2mmの黄銅製が多い)に高電圧をかけ、被加工物との間に放電を繰り返しながら切断するNC工作機械。』
シェイピング加工(精密切削加工機)は、金属ヤスリで対象物の外周などを削ったりする作業を機械で行ってしまおうというものです。個人的には場外加工かと思っていました。造幣局では製造工程の一部は場外加工をされていますので。
研究開発の成果と製品
貨幣へ技術転用する前に章牌やメダル、額装などに新しい技術が取り入れられています。
年度 | 技法 | 製品 |
---|---|---|
平成15年 | 槌金技法 | 純金平成大判 |
平成16年 | バイメタルメダル | 鴛鴦(おしどり)文鎮 |
平成17年 | 箔クラッド技術 | 世界遺産 (知床) の飾り額 |
平成18年 | グラデーション | グラデーションメダル「外輪蒸気船」 |
平成19年 | フォトイメージ加工 | 坂本龍馬肖像メダル |
平成21年 | ホログラム | 桜の通り抜け金メダル |
平成22年 | 虹色発色加工 | 桜の通り抜け金メダル |
平成23年 | クリスタルガラス | 干支メダル(卯) |
平成24年 | レーザーによる梨地加工 | 桜の通り抜け金メダル |
平成25年 | 複雑な虹色発色加工 | 桜の通り抜け金メダル |
平成25年 | レリーフ部への梨地及び鏡面加工 | ICDC2013メダル |
平成28年 | 梨地部分への微細文字 | 純金干支メダル(申) |
平成28年 | 虹色発色加工の応用 | 世界文化遺産プルーフメダル3点セット |
平成29年 | レーザ加工によるフォトイメージ加工 | 国宝章牌「元離宮二条城」 |
令和元年 | レーザーによる階調梨地加工 | 純金干支十二稜メダル(子) |
直近も技術開発や向上に取り組まれていると思いますが、ホログラム潜像、レーザーによる梨地加工、虹色発色加工といったこれまで開発された技術の深化や応用と思われます。令和4年度では、純金干支メダル、国宝章牌「清水寺」、史跡名勝天然記念物保護100年記念2022プルーフ貨幣セット(の銀メダル)でこれらの技術が取り入れられております。
以上になります。全ての製品を所持してはおりませんが、手元にあるもので写真が取れたらアップしたいと思います。