造幣局製の七宝作品は、勲章を代表に章牌など金属工芸品としても大変魅力的なお品だと思います。また、勲章及び褒章に用いられる作品のため、美麗さや厳格さ、品格を兼ね備えているのが印象的です。
七宝作品の一部は、造幣局の見学会等で拝見することができ、作り方についても見聞きすることができると思いますが、もう少し詳しく知りたいと思うとあるようでないのがもどかしいところでした。
個人的な備忘録にはなりますが、造幣局七宝作品の制作工程をまとめました。
制作の大まかな流れ
七宝作品の制作は、大まかな流れとしては以下の工程があります。
- 図案作成工程
- 極印作成工程
- 溶解・鋳造工程
- 成形工程
- 七宝工程
原図となる図案を作成し、それを元に極印(金型)を作成。土台となる金属は、溶解し鋳造し金属板を作ります。圧写機(プレス機械)を用いて金属板に極印の模様を転写します。その後、模様に七宝釉薬を盛り付けて焼き付けます。仕上げに鍍金や研磨を行い完成です。
要約としては以上になりますが、もう少し工程を細かく見てみたいと思います。
図案作成工程
図案作成の工程をもう少し細分化してみると以下のような作業に分かれると思います。
- 原画の写真撮影や選定作業
- 図案作成
- 粘土原型作成
- 石膏原版作成
- 3Dデジタルデータ作成
原図は、すでに用意されていたり題材があったりスタート地点は様々かと思いますが、必要に応じて現地に赴き写真撮影などを行い原画となる素材を収集します。収集した素材から原画の選定を行いますが、場合によっては複数の候補のラフ画を作った上で最終選考となるケースもありそうです。
図案は、デジタル作画をされていると思いますが、金型から金属へ転写していく流れになるため金属工芸品ならではの加工といいますか調整があるものと思います。
この後、デジタル作画をそのまま用いて極印の作成を行うのではなく、さらに粘土板で原型を作られるのが興味深いところです。デジタル作画のままだと浮彫りの表現に必要な立体感や奥行きが表現されていないため、凹凸を表現できる粘土板による彫刻が必要になります。
そして、出来上がった粘土原型に石膏を流し込むことで石膏原版が作られます。
その後、石膏原版を三次元測定しデータとして取り込みます。この3Dデジタルデータが極印の元になるデータとなり以降、金型を作っていきます。
極印作成工程
極印は、3Dデジタルデータを元にNC彫刻機やレーザー彫刻機によって作られます。また、必要に応じて手作業による仕上げが行われます。貨幣と同様に特に精巧で正確さを求められるのは、極印を用いて何百、何千の金属工芸品を作られていくことを考えるとかなり緻密な作業であるのが窺えると思います。
溶解・鋳造工程
溶解は、金属を溶かして鋳塊を作る作業。鋳造は、鋳塊から必要な形に成形する作業。
もう少し詳しくまとめると、鋳塊した後に圧延(あつえん)という作業があり、加熱して必要な厚さの板状に加工します(熱間圧延)。この後、面削作業では加熱の過程で酸化し黒くなった部分を削り取ります。さらに仕上げとして冷間圧延を行い、均一な厚さに仕上げていきます。これにより、素地である金属の圧延板が出来上がります。
また、この後に成形工程に移りますが表面に絵柄を転写する前に、圧延板を元にプレス機を用いて円形などの決められた形に打ち抜きます。造幣局では章牌やメダルなど円形に作ることが多いことから円形(えんぎょう)と呼ぶそうです。(一般的には圧穿(あっせん)と呼ばれる工程)
成形工程
圧印と呼ばれる工程で、円形などに打ち抜いた金属に極印の絵柄を転写する作業です。表面、裏面の絵柄が刻まれた極印(金型)に金属を挟み、プレスすることで絵柄を転写させます。また、必要に応じてヤスリで形を整えていきます。
七宝工程
絵柄の所定の位置に釉薬を盛り付けます。盛り付けた後、電気炉に入れて高温(800度~900度)で釉薬を焼き付けます。幾度かの釉薬盛り付けと焼成の作業を経たら、焦げた縁などをヤスリで研ぎ仕上げます。その後、羽布で研磨をし光沢を出します。最後に金メッキなどを施して完成となります。
以上になります。
なお、造幣局の情報誌「ミントクラブ」のバックナンバーで七宝章牌の制作工程を拝見できます。
造幣局HP「ミントクラブ(情報誌)」https://www.mint.go.jp/buy/mintclub_index.html
バックナンバーのミントクラブ第27号(平成20年11月発行)に掲載されておりますが『七宝章牌のできるまで』と題して雅楽の原形、極印、圧写、七宝盛り付け、七宝焼き付け、メッキとおおまかな流れを見ることができます。原図の型と思われる石膏や七宝盛り付け前の状態から釉薬の盛り付け過程の写真を見ることができますので、こちらも参考になると思います。